親の家や土地を相続する際に、名義変更の手続きを後回しにしても、何事もなく住むことができてしまう場合があります。
しかし、その油断が後から大きなトラブルの元になることも。
手続きを疎かにすることで、さらに自分の子や孫の代まで迷惑をかけることになりかねません。
今回は、一番厄介とも言われる家や土地の相続において、必ずやっておくべきことと、やってはいけないことを解説して行きます。
絶対やるべき!「相続登記」
まずは、忘れると必ずと言って良いほど後悔する「相続登記」についてご説明します。
〈相続登記とは?〉
相続登記とは、不動産の所有者が亡くなった場合に、不動産の登記名義を相続人へ変更する手続きのことを言います。
〈相続登記しなかった場合に生じるトラブル〉
相続登記をしていなかった場合、不動産を買いたいという人が現れても家を売却することができませんし、引越しをすることさえできません。
いざ登記をしようとした時に、もし相続人の一人が認知症になり判断ができなくなっている際には、家庭裁判所で成年後見人を選出する手続きが必要になるなど、費用も時間もかかってしまいます。
また、相続人の気が変わったり、不仲になってしまったりして、遺産分割協議書に印鑑を押してもらえないなどのトラブルも起こり得ないとは言えません。
その他、被相続人の死亡から相続登記までの期間が延びてしまう事で、二次、三次と次々に相続権が転移してしまいます。
こうなると相続人は鼠式に増えるため、登記申請に必要な書類の収集や作成に時間と手間がかかってしまい、専門家に頼んだとしても申請の長期化は避けられません。
〈手続きを行う場所〉
手続きは、不動産のある地域を管轄する法務局でしか行うことができません。
遠方の場合には、郵送での手続きも可能です。
〈相続登記に必要な書類〉
①故人の出生から死亡までの戸除籍謄本
②故人の住民票の除票
③相続人全員の戸籍謄本
④不動産を相続する人の住民票
⑤不動産の登記事項証明書
⑥固定資産評価証明書
⑦登録免許税(不動産の評価額の0.4%を収入印紙で収める)
⑧遺産分割協議書
⑨相続人全員の印鑑証明書
※遺言書がある場合には⑧⑨は不要
〈登記事項証明書〉
⑤の登記事項証明書は、全国どこの法務局でも取得することができます。
オンラインサービスもあるので便利です。
〈固定資産評価証明書〉
⑥の固定資産評価証明書は、相続する不動産がある市区町村の役場で取得することができます。
郵送での手続きも可能。(郵送の場合、23区内では都税証明郵送受付センターで取得)
固定資産評価証明書の取得に必要なものは以下の通りです。
・固定資産証明申請書(役所のホームページからダウンロード可能)
・故人の除籍謄本
・相続人の戸籍謄本
・手数料(自治体が指定する金額の郵便定額小為替)
この固定資産評価証明書は税務署の手続きにも使用することになります。
やってはいけない!共有名義はトラブルの元
共有名義とは、複数の名義人が一つの不動産を所有している状態のこと。
家族の死後は色々と手続きが多く慌ただしいということもあり、とりあえず共有名義にしておいて後から考えようという場合も多いです。
しかし、共有名義は後々トラブルの元。
共有名義の状態だと、名義人全員の署名・捺印がないと不動産を売却することができません。
相続人全員が集まるのが面倒という理由で、そのまま放置されてしまうケースも少なくないのです。
共有名義人の誰か一人が亡くなると所有権が相続されるため、名義人がどんどん増えてしまうという可能性もあります。
必ず相続人誰か一人の名義で相続登記を行うようにしましょう。
登記申請書を作成する
登記申請書の作成は、手書きでもパソコンでも大丈夫です。
大切なのは、不動産情報を正確に書くということ。
登記簿謄本に書かれている通りに書くのがポイントになります。
※①
法務局の処理手続きの都合上、上から6cmほどは余白にしておきましょう。
※②
被相続人が亡くなった日(戸籍上の死亡日)を記載します。
※③
各種作用名書類を添付します。
(1) 登記原因証明情報
戸(除)籍謄本、遺産分割協議書、遺言書など不動産の名義変更が行われる原因を表す書類一式のこ
と。
(2)住所証明情報
住民票の写しや戸籍の附票の写しで、新しい所有者の住所を表すもの。
※④
郵送の場合、法務局に届く日を記載します。(不明の場合には空欄でも可)
※⑤
登記申請をする不動産の地番(住所とは別)を書きます。
登記事項証明書にある不動産番号も記載しましょう。
申請から1~2週間程度で登記識別情報通知が届いたら、相続登記の手続きは完了となります。
財産がうまく分けられない…「配偶者居住権」が便利
民法が改正されて、新しく2020年4月から認められるようになった「配偶者居住権」。
(2020年4月1日以降に亡くなった人の相続が対象となります。)
〈配偶者居住権とは?〉
配偶者居住権とは、相続が発生する前から住んでいた配偶者の自宅は、配偶者が自宅の権利を相続しなかったとしても住んでいて良いという権利。
「配偶者居住権」という新制度により、“自宅を持つ権利(所有権)と住む権利(居住権)を分けて相続できるようになった”ということなのです。
〈新制度を利用するのはこんな時〉
例えば、故人が残した財産が、自宅3000万円と現金600万円で、相続人が妻とその子供の2人だった場合。
通常の相続では、妻は自宅を相続し、子供は現金を相続するという分け方に。
これだと、現金を相続していない妻の今後の生活が成り立たなくなってしまう恐れがあります。
新制度を利用して、「妻に自宅の居住権と現金300万円」「子供に自宅の所有権と現金300万円」と分けることで、2人が財産を均等に相続できるようになるのです。
〈新制度を利用する際の注意点〉
配偶者居住権は、終身の権利であることが前提となっています。
居住権が設定されている自宅は売却することができず、設定してしまうと、引越しができない可能性も。
今後引越しをする予定がないという場合に、新制度を利用するようにしましょう。
〈配偶者居住権の手続き方法〉
登記申請書に、居住権と所有権を分けて記載しましょう。
通常の登記とは違って、所有権と居住権を持つ相続人が、共同で登記する必要があります。
相続人同士仲が悪い…それでも新制度を使いたい時は?
新制度である配偶者居住権を利用するには共同登記が原則となるため、相続人同士の仲が悪い場合には、利用が難しくなることも考えられます。
〈生前に対策しておく〉
相続人同士の間でトラブルが起きることが想定される場合には、生前に「死因贈与契約」という契約を結んで死後の登記をスムーズにする方法があります。
〈死因贈与契約とは?〉
「甲は以下の建物について配偶者居住権を乙に贈与することを約し、乙はこれに承諾した※夫を甲、妻を乙とした場合」
まずは、この文言を書いた公正証書を作成します。
これが、死因贈与契約書。
この契約書を持って法務局に行くと、死亡後に効力が生じるという意味の「始期限付き配偶者居住権設定仮登記」の手続きを行うことができます。
ここまで済んでいれば、相続発生時に法務局で本登記を行うことで新制度の利用申請が完了となるのです。
仮登録をしておくことで、他の相続人に自宅を勝手に売却される心配もなくなります。
家や土地の相続は、後に回すともめやすくなってしまいますので、自分の家族に迷惑をかけないよう、生前に準備しておくようにしましょう。
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「相続財産への課税が心配」「調べてみてもよく分からない」「身内に頼れる人がいない……」などお悩みをお持ちの方は、ぜひ当事務所にご相談ください。